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【インドネシア法情報】

日本の法律家、研究者および日本企業のために、インドネシア法の情報を提供していきます。

Q1.
インドネシアの法制度の概要について教えてください。
A1.
インドネシアは1605年以降、オランダの植民地であったため、基本的には大陸法系に属します。1942年に日本が侵攻するまで、 オランダ法の影響を受けた民法、商法、刑法など各種法典が制定され、適用されていました。これらの法典のうちの一部は、 現在もなお有効に存続しています。そのほかに、アダットと呼ばれる慣習(法)が存在します。
また国民の約9割をイスラム教徒が占めるため、イスラム教徒間で適用されるイスラム法が存在します。 独立後は、数多くの法令が制定されており、現在の法律実務の多くはこれらの法令に依拠しています。
主な法令の種類としては、以下のものがあります。
  • 基本法(憲法)
  • 国民協議会令
  • 法律および法律代用政令
  • 政令
  • 大統領令
  • 州条例および県・市条例
Q2.
インドネシアの統治機構の概要について教えてください。
A2.
インドネシア憲法の制定(1945年)後、国権の最高機関として国民協議会(MPR)があり、その下に国会(DPR)、大統領、最高裁判所、 最高諮問会議(DPA)、会計検査院が置かれていました。 しかし憲法が改正され、現在では、三権分立が確立し、以下の様な法制度となっています。
(1)政体および憲法
インドネシアの政体は立憲共和国であり(1945年8月17日に独立宣言)、パンチャシラ:Pancasila(建国5原則)を国是とし、 1945年憲法を国家の基本方針としています。
建国5原則:①神への信仰、②人道主義、③民族主義、④民主主義、⑤社会正義
1945年憲法は、第1次改正(1999年)、第2次改正(2000年)、第3次改正(2001年)および第4次改正(2002年) が行われました。この4度の改正による主な変更点は、大統領の再選を2期10年に制限したこと、 正・副大統領の選出方法を有権者による直接選挙にしたこと、地方代表議会(DPD:Dewan Perwakilan Daerah)の設置などです。
(2)立法機関
立法府として国会、地方代表議会および国民協議会がありますが、このうち法律の制定(立法)機能を有しているのは国会のみです。 各々の機能は、次のとおりです。
①国会(DPR:Dewan Perwakilan Rakyat)
法律案の提案・審議・制定、国家予算の決定、政府に関する監視機能を有します。議員定数560名。議員の任期は5年、 総選挙によって選出されます。
②地方代表議会(DPD:Dewan Perwakilan Daerah)
33州(2016年8月時点で全34州だが新しい北カリマンタン州からはまだ代表は選出されていない)から 4名ずつ選出された議員で構成されます。2001年の国民協議会による第3次憲法改正によって新たに設置することが決定され、 2004年に発足しました。地方自治、中央と地方との関係、天然資源の中央と地方の分配等につき法案を国会に提出し、 審議に参加します(但し、議決には参加しません)。
③国民協議会(MPR:Majelis Permusyawaratan Rakyat)
国会議員(560名)および地方代表議会議員(132名)の合計692名により構成されます。憲法の改正、 憲法裁判所の判断を受け国会が正・副大統領の解任を要請した場合の正・副大統領の罷免を行う権限等を有します。
(3)行政機関
インドネシアの主な行政府は大統領と内閣です。内閣のもとには多くの省および国務大臣府が設置されており、 そのほか大統領直属の行政庁も多数あります。
①大統領
大統領は国家元首です。かつては、正・副大統領ともに国民協議会によって選出されてきましたが、 2001年の国民協議会による第3次憲法改正の結果、有権者による直接投票によって正・副大統領を選出することが決められました。 2004年10月、直接選挙によって初めての正・副大統領が誕生しました。
②内閣
内閣は大統領を補佐する機関であり、各大臣はそれぞれ特定の分野に関して大統領を補佐します。 現内閣は、大統領、副大統領に加えて、大統領によって任命された4名の調整大臣、国家官房長官、各省大臣、 臨機の国務大臣、閣僚級高官より構成されています。
コラム1  国軍の国会議席の全廃
かつてインドネシア国軍は、国政に一定の影響力を持っていました。
しかし、現在は民主化の流れの中でプロフェッショナルな国軍を目指し、国軍改革を推し進めており、 スハルト政権下に有していた「国軍の二重機能」を破棄し民主的な国軍作りに取り組んでいます。 2004年には、それまで有していた国会議席を全廃し、政治分野からの撤退を決めています。
Q3.
インドネシアの司法制度の概要について教えてください。
A3.
司法権は、最高裁判所および法律で定めるその他の司法機関、並びに憲法裁判所がこれを行使します(憲法第24条)。
(1)裁判所の種類
裁判所は、①普通裁判所(民事および刑事の一般事件)、②行政裁判所(行政機関により法が侵害された場合、または権限の 濫用により財産的損害を受けた場合に、政府に対して提起する民事事件)、③宗教裁判所(当事者がイスラム教徒であり、 イスラム法・教義により裁判されることに適した婚姻・遺産相続等の家事事件および一部の経済事件)、および④軍事裁判所 (被告人が軍人である刑事事件)の4種類に分かれます。
各種裁判所には、地方裁判所と高等裁判所があり、全事件に関する最終的な不服申立である上告および再審を最高裁判所が 審理・裁判します。
各裁判所は、司法権の行使にあたっては、訟廷事務的には最高裁判所の指導監督を受けます。 裁判所基本法(1999年法律第35号)により2004年以降、裁判官等の人事行政、裁判所の予算や管理などの司法行政も、 それぞれ、法務人権省(①、②)、宗教省(③)、国軍(④)から最高裁判所に移管し一本化されました。 ただし、税務裁判所については人事や予算管理は財務省の管轄下にあり、一本化は不完全です。
(2)調停および仲裁
訴訟手続に関してインドネシアでは民事訴訟法により和解勧試(調停)が義務づけられており、調停制度が充実しつつあります。 調停のほか、契約時に仲裁を選択することも可能であり、仲裁機関としてはBANI(インドネシア国家仲裁機関)が存在します。
(3)特別法廷など
普通裁判所の第一審裁判所(地方裁判所)の一部には、商事特別法廷(破産事件、知的財産権事件)、 人権特別法廷(国家権力による大量虐殺事件等)、汚職特別法廷(公務員による公金横領事件等)、労使関係特別法廷(労使事件等)、 漁業関係特別裁判所(漁業関連刑事事件)も設置されています。
アチェ州には宗教裁判所はなく、代わりにシャリア(イスラム法)裁判所が設置されており、宗教裁判所の管轄事件のほか、 イスラム法に抵触する一定の刑事事件も審理・裁判します。
(4)最高裁判所
最高裁判所は、法律より下位の規範が法律に違反しているかどうかを審査する権限を有します。
(5)憲法裁判所
憲法裁判所は、法律が憲法に違反しているかどうかを審査する、いわゆる違憲立法審査権を有するほか、 国レベルの選挙関連の事件を扱う、第一審かつ終審の裁判所です。
コラム2  汚職撲滅委員会
汚職撲滅委員会(KPK:カーペーカー)は、一定の汚職事件に関して捜査・起訴権限を有する刑事司法機関です。
汚職撲滅委員会は、法律により、盗聴、海外渡航禁止命令、財産情報の調査、口座凍結命令など強い権限を付与されており、 実際に幾多の大型汚職事件を明るみに出してきました。そのため国民からの支持も高いのです。
しかし、このことは、これまで結果的に汚職を明るみに出すことができなかった(しなかった)従来型の司法機関である 国家警察や検察庁との軋轢を生みました。汚職者と利害が一致した警察は、理由を見つけては汚職撲滅委員会の委員の 身柄拘束を行い、しばしば汚職撲滅委員会の機能を停止させているという現状があります。
また、2019年には汚職撲滅委員会の権限を縮小させる改正法が成立しており、その弱体化が懸念されます。
Q4.
インドネシアの弁護士制度の概要について教えてください。
A4.
弁護士法(2003年)によれば、弁護士は、2004年に発足した統一弁護士会(PERADI)に登録しなければ弁護士業務を行うことが できません。
また、新たに弁護士となりたい者については、法学部を卒業した後、統一弁護士会が実施する法曹専門教育を受け、 同会が実施する弁護士試験に合格し、2年以上弁護士事務所でインターン活動をしなければ弁護士となることができないなどの 資格要件があります。
弁護士法制定以前には、思想信条により形成された8つの弁護士会が存在しました。これを統一したのがPERADIだったのですが、 2008年にPERADIとKongressに分裂してしまいました。これに対して、最高裁は当面の間、高等裁判所による新規弁護士認証は、 両勢力ともに対して行わないという措置をとりました。
その後2015年12月に憲法裁判所の判決があり、結社の自由を根拠に、弁護士法の明文にかかわらず、Kongressが認めた 新規登録弁護士も合法な弁護士として認証できることとなりました。これを受けて最高裁は、高等裁判所による 新規弁護士認証を再開させました。
2016年11月現在、弁護士会は6つ存在しており、PERADIを称するものが3グループ、Kongressを称するものが2グループ、 IKADINが1グループとなっています。
Q5.
インドネシアに子会社を設立して事業を開始したいと思うのですが、注意点を教えてください。
A5.
(1)会社設立、事業開始までの手続概要
インドネシアで子会社を設立して事業を開始する場合、主な手続としては、会社定款(設立証書)を作成して、会社設立に係る法務人権大臣の決定を取得し、工場建設等の操業準備を経たうえで、事業リスクに応じたオンライン・シングル・サブミッション(OSS)システム上の事業許可を取得し、実際に事業を開始する段取りとなります。
(2)外資規制・財源規制の確認
インドネシアは外国からの出資に関する規制が多い国ですので、会社設立に着手する前に外資規制の確認を行うことが重要です。外資規制に関しては、「投資に関する法律2007年第25号」、「投資分野に関する大統領令2021年第10号(同49号により改正)」、「リスクベースの許認可に関する政令2021年第5号」などに基づいて確認します。前記大統領令の別表がいわゆるポジティブ・リストと言われているもので、そこでは外資による投資が認められていない事業分野、外資の持株比率の上限が定められている事業分野、その他の制限が付されている事業分野が定められています。また、事業毎の事業許認可の要件及び業規制の確認も重要です。
投資調整庁規則には財源規制も定められています。外国投資会社(PMA)は会社設立にあたって、100億ルピア以上の当初払込資本金、並びに、投資計画に基づき、土地及び建物を除いて原則として事業分類(KBLI)毎に100億ルピア以上の投資が必要とされています。
(3)定款作成、資本金払込、法務人権省の承認
会社定款は、会社設立に際して株式を引き受けて株主となる者がインドネシア公証人の面前で署名して、公正証書として作成します。インドネシア会社法(2007年法律第40号。2020年法律第11号により改正。)第7条では会社は2名以上の株主で設立されなければならないと定められており、一株主が全株式を所有する形で会社を設立することはできません。外資と内資の合弁企業として子会社を設立するときは、通常、合弁契約書を締結しますが、その場合には会社運営に関する合弁契約書の内容に沿って定款を作成する必要があります。なお、会社名については、インドネシア会社法第16条に要件が定められています。
会社定款を作成したら、公証人を通じて会社設立に関する法務人権大臣の決定を取得します。会社設立に関する法務人権大臣の決定をもって、会社は法人格を取得します。
(4)事業許認可の取得
法人格の取得後に、事業リスクに応じてOSSシステム上で事業許認可を取得します。事業内容によっては許認可取得の要件が厳格であるため、留意が必要です。

*本問の情報は2023年1月現在です。当ウェブサイトは個別の具体的案件について法的助言を提供するものではありません。 当ウェブサイトの記載に基づいて行われたいかなる判断・活動の結果についても当協会は責任を負いません。

Q6.
インドネシア企業と外国企業との契約はインドネシア語で作成しなければならないと聞いたのですが、本当でしょうか。
もし英語で作成した場合は、契約の効力はどうなるのですか。
A6.
インドネシアの「国旗、国語、国章、国歌に関する法律2009年第24号」(以下、「言語法」といいます。)第31条では、インドネシア人、インドネシア企業との契約書はインドネシア語で作成しなければならないと定められています。そして、外国当事者との契約書は(インドネシア語の契約書に加えて)英語等の外国語でも作成することができると定められています。契約書の当事者にインドネシア企業(外資企業を含みます。)が含まれている限り、インドネシアでの国内取引、クロスボーダー取引にかかわらず、契約書は言語法の対象となります。
言語法では、インドネシア企業等との契約書が外国語のみで作成された場合における契約書の効力までは定められていません。このような状況下で、2015年8月にインドネシア最高裁判所は「外国語のみで作成されたインドネシア企業との契約書は無効」との判決を下しました。前記判決内容が判例として現時点まで維持されており、外国語のみで作成されたインドネシア企業等との契約書は、インドネシア企業等との間で法的紛争が発生した場合、裁判所で無効と判断されるリスクがあります。したがって、現在の実務では、インドネシア企業等との契約はインドネシア語またはインドネシア語と英語を併記して作成するのが一般的となっています。インドネシア語と英語を併記して契約書を作成する場合、両言語の内容に齟齬があったら英語が優先するとの条項を契約書に含めることが多いです。言語法の施行規則として制定された大統領令2019年第63号に基づき、外国企業とインドネシア企業等との間の契約においては、外国語が優先する旨の条項が有効であることが確認されています。
契約書の準拠法を外国法(シンガポール法、日本法など)とし、紛争解決方法を外国(シンガポール、日本など)での仲裁と指定している場合には、外国での仲裁手続では、外国語のみで作成されたインドネシア企業との契約書が無効と判断されるリスクは高くないであろうと解されるため、そのような場合には英語のみでインドネシア企業との契約書を作成することもあります。しかし、そのような仲裁判断をインドネシア国内でインドネシアの裁判所を通じてインドネシア企業に対して執行しようとする場合、インドネシアの裁判所が言語法を適用して執行を認めないリスクがあることに注意が必要です。

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